2013年4月21日日曜日

「電通「鬼十則」」 植田 正也


電通の当時(昭和26年)社長であった吉田秀雄が、社員のために書いた10カ条が「鬼十則」です。そして、他のビジネス書や歴史書で言われていることを引用しながら著者の解釈を加えているのが本書です。

その鬼十則とは、

1.仕事は自ら「創る」可き(べき)で、与えられる可きでない。
2.仕事とは、先手先手と「働き掛け」ていくことで、受け身でやるものではない。
3.大きな仕事と取り組め、小さな仕事はおのれを小さくする。
4.「難しい仕事」を狙え、そしてこれを成し遂げるところに進歩がある。
5.取り組んだら「放すな」殺されても放すな、目的完遂までは。
6.周囲を「引きずり回せ」、引きずるのと引きずられるのとでは永い間に天地のひらきが出来る。
7.「計画」を持て、長期の計画を持っていれば忍耐と工夫とそして正しい努力と希望が生まれる。
8.「自信」を持て、自信がないから君の仕事には迫力も粘りもそして厚味すらがない。
9.頭は常に「全廻転」、八方に気を配って、一分の隙もあってはならぬ、サービスとはそのようなものだ。
10.「摩擦を怖れるな」、摩擦は進歩の母、積極の肥料だ、でないと君は卑屈未練になる。
となっています。


■「3.大きな仕事と取り組め、小さな仕事はおのれを小さくする」に関しては、大きな仕事に取り組むことこそが人間的に大きくなれるとしており、さらには、人間として大きくなるために、本を読むこと、人に会うこと、旅に出ることの3つを著者は勧めています。
本を読むことについて、
本を読むことは、人間の脳のビタミン剤である。
そして、
本は知識と情報の宝庫である。読む本の量とスケールで、その人の器が決まってくる。
さらには、
時空を超えて著者に会える。何のアポも了解もなく、勝手に著者に会えるのだ。こんな贅沢は他に類がない。
と述べています。本を読むことでその著者に会えるとすると、読書は人(その本の著者)に会うことと解釈できるでしょう。さらに、読書で経験を広げられるとすると、旅にでることの代わりを読書で部分的には実現できると言えます。(実際の旅の体験には及びはしませんが。)


■「5.取り組んだら「放すな」殺されても放すな、目的完遂までは」については、やるかやらないか、やると決めたら最後までやり遂げろという意味です。途中でやめてしまうとスタートラインに戻ってゼロからやり直すことになるから、強い意志をもって、「殺されても放すな」となっているのでしょう。
見方は変わりますが、「途中までやったことが無駄になるから」やめない(やめられない)状況では少し違います。例えば、「投資とリターン」の場合では、これまでの投資が無駄になるから続けて損失を拡大させるよりも、将来にわたって損失が拡大を避けるために、それまでの投資分をあきらめる考えもあるからです。
目的完遂も重要ですが、状況により目的を「修正」する柔軟性も必要に違いありません。


■「9.頭は常に「全廻転」、八方に気を配って、一分の隙もあってはならぬ、サービスとはそのようなものだ」は、「気遣いの重要性」についてです。気遣いについて著者は、
ビジネスマンの一流、二流、三流の差は、気の配り方次第で決まる。三流は一方だけ、二流は四方、一流は八方に気が廻るのだ。
と述べており、この八方が「頭は常に全廻転」のことだと言っています。

気配りとゴマスリの違いについては、以下のように述べています。
気配りには、尊敬の気持ちがある。
ゴマスリには、卑しさの気持ちが出る。
この二つは、似て非なるものだ。
確かに、「ゴマスリ」は打算的なにおいがします。
「サービス」に関係した、外向きの気遣いはもちろんですが、社内においても、部下や上司や同僚に対しても気遣いは必要なのだろうと思います。


■「10.「摩擦を怖れるな」、摩擦は進歩の母、積極の肥料だ、でないと君は卑屈未練になる」では、従来の日本的な「和をもって貴しとなす」、のスタイルではダメで、出る杭になる必要があることを述べています。また、そのときには、単に摩擦ではなく「プラスの」摩擦だとしており、それぞれを以下のように説明しています。

プラスの摩擦
・摩擦が、世のため人のためになる
・信念に基づく

マイナスの摩擦
・猪突猛進
・トラブルメーカーが引き起こす
・信念がない

表現は違いますが、「2」と「6」も、この「10」と同じようなことを言っているように感じます。


個人的には、3、6、10が気に入っています。この鬼十則の英訳もあるようですが、日本語のニュアンスがかなりそぎ落とされた感じになっています。


60年以上前に作られた10カ条ですが、現在でも通用するのは驚きです。
しかし、減点主義という日本社会の枠組みのなかで実現するのは簡単なことではないでしょうね。


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