2018年12月24日月曜日

「老いと孤独の作法」山折哲雄

これまでの随筆をひとつの本にまとめた形態なので、必然的にひとまとめに内容を語るのは難しい。しかも、内容としてもそれほど簡単とは言えず、おそらくはこれまでの著者の本をすでに読んでいるか、あるいは、宗教や歴史に造詣が深い人でなければ内容の理解が消化不良となるであろう。

貧乏暮らしの3つの心構えが紹介されている。それは、出前の精神、手作りの精神、身銭を切ることである(p.50)。はじめの2つは、自分で出ていって仕事をすること、足りないものは自分で作る・修理することで、これらの精神はわかる。ただ、3つめに、貧乏といえども「身銭を切る」ことを挙げている点は興味深い。これは、公助や共助に先んじて自助、自立があるべきだとの考え方に立脚しており、(公助とは言えないかもしれないが)会社の経費を必要以上に当てにしていてもそこからは何も生まれないという。ビジネスの世界で飲み会に誘うならば経費を当てにせず身銭を切るべきだとの主張をどこかで読んだ気がする。「自腹で」という点に何らかの普遍的な理由が存在するかもしれないが、「身銭を切る」ことでその機会が厳選される効果があるのかもしれない。

天皇退位に関する部分では、生前退位の形態と「王殺し」による代替わりについての考察をしており、平成が終わるこの時期に、天皇の退位について考える上で参考になるだろう。これと関係して「定年」の由来についても言及している。

「老い」の先には死があるのは必然であり、死に向きあうことについては、BC級戦犯たちによって巣鴨の父と敬愛された仏教の教誨師(きょうかいし)田嶋隆純の活動について述べている。恥ずかしながらこの話を全く知らずに今日まで生きてきた。戦後の日本の歴史は現在どの程度学校で詳細に教えられているのか知らないが、戦争裁判の是非も含めてきちんと教育されるべきであろう(学校教育にだけ依存していけないのは言うまでもないが)。東京駅前に再び設置された「愛の像」にそのうち立ち寄ってみたいものである。