2020年2月2日日曜日

「定年後」 楠木新

「定年後」に関して、著者の調査やインタビューの経験も踏まえてはいるものの、現時点での著者の立ち位置から「定年後」を見ている内容だ。

会社勤めであれば、ほとんどの人にとっていつかは終わりがくるわけで(定年廃止の選択も企業にはあるがおそらくは少数派)、定年後の過ごし方はひとつのテーマとなりうる。ただし、その過ごし方は、現在、自分がどの世代にあるかによって大きく左右されることは間違いない。本書で取り上げられているように、定年後に、属性を失い、それが本人および家族の問題となるのは、年金などでの生活保障がある世代である。すなわち、無理やり働かなくとも、生きていくには何とかなる人たちである。生きていくうえで心配のいらない世代であれば、単に「生きがい」をみつけることや、社会とのつながりをもつことがとりあげられればよいと思う。そのために、会社だけの繋がりをもつだけではなく、会社への属性を失ったあとを考えて、定年前から地域や何らかのコミュニティーへの繋がりを考えておく(助走をつけておく)ことは大切であろう(ほかの本でも同様のことは言われているが)。

「会社は天国?」の項では、会社勤めのメリット(いろんなことをタダで教えてもらえるし、会社の経費で飲めるなど)を挙げているが、これらは会社員と、自営とを経験しないとわからない点であり、会社勤めを辞めるまえに考えておいたほうが良い点かもしれない。

第7章の「死から逆算してみる」で、「自らの人生を創造的なものにするには、やはり人生の締め切り、最期のことを勘案しておく必要がある」(p198)点は、折に触れ必要なことであろう。中年期以降であれば「死から逆算」に現実味があるが、若ければ自身の最期をイメージするのは難しいと思われる。
「終活よりも予行演習」の項で、死んだ後の葬式をどう演出するかの著者の希望が書かれている。この点については、正解はないと思うし、それが自然である。なぜならば、死生観は人によって違うからである。個人的には「終活」に使う時間が果たして有効なのかに疑問をもっている。その一方で、「人生とは壮大な暇つぶし」という人もいるので、時間を消費する方法としては有用であるかもしれない。

「定年」に関してはさまざまな著述があり、それらが参考文献として本書巻末にまとめられているので、2017年2月ごろまでの定年本レビューとしても活用できる。