2018年2月12日月曜日

「働き方の問題地図~「で、どこから変える?」旧態依然の職場の常識」沢渡あまね+奥山睦

日本の職場(ホワイトカラーの場合)の問題点とその解決策について著した本である。

■1丁目(第1章のこと)の「グローバル化できない職場」では、
”海外の企業では、人を雇うイコールその人の専門性を買う。それに対し、日本はその人の時間を買う発想が強い”(p39)
との通りであり、なんでもやってくださいとなるが故に、時間内でも帰られなくなるというのは当然の帰結であろう。この点は職務主義か職能主義かの違いを反映している点であり、現在の国内の雇用形態ではいたし方ない。
 その解決法として「サービスカタログを作ってみる」との提案がなされている。これは一定の効果があるだろう。「サービスカタログ」とは、部署の業務=サービスを一覧化したリストのことである(p46)。

■シンプルコミュニケーション力で示されている3つの法則は実用性が高い(p52)。
それらの法則とは:
①CCFの法則(Conclusion Comes First):結論を先に言う

②NLCの法則(Numbering,Labeling,Claiming)
・論点がいくつあるかを数値で示す
・各論点にタイトル(ラベル)を付ける
・各論点の詳細を説明する

③AREAの法則(Assertion,Reasoning,Evidence/Example/Experience,Assertion)
:主張→理由→証拠→主張の順番で展開する

CCFは特に偉い人に対して話すときには重要だ。言いたいことを頭に持ってきて時間を短くすることが可能だからだ。

NLCについては言うまでもなくプレゼンの基本であり、パワポで資料を作った経験があればすでに知っていることであろう。また、会議を開催する際に準備するアジェンダも同じ法則にのっとってつくるのが通常である(まともな会議であれば)。

AREAはディベートの経験があれば身に付いているかもしれないが、欧米と比べると日本人が負けているスキルであるかもしれない。AREAは言い方をかえれば論理的な話し方とも表現できるであろう。

■管理職のタイムマネジメントを見直すための方法として、ウィークデーの時間記録をつけることを奨めている(p188)。職場でやったことを15分単位で記録して、自分でやる仕事なのか、それとも誰かに振れる仕事なのかの見直しに使えるという。自分の仕事をそつなくこなすのは重要であるが、時間の制約もあるので、いかに仕事を割り振るかという能力は、特に「働き方改革」が言われる昨今では重要だ(自分でやった方が早くデキルことはままあるが)。

■本書ではそのほかにテレワークの可能性が特に女性活用の観点から強調されている。が、「時間が短くてもやることやっていれば評価が高い」のは、そのまま「成果主義」であり、すべてのヒトが恩恵を受けるとは思えない。その大前提は「すべてのヒトができるヒト」であり、必然的にできないヒトをカットする仕組みとセットでなければ拡大は難しい。会社の業績を上げることは重要であるが、同時に従業員は自分の生活があり「すべてがハッピー」になるのは難しい。


2018年2月4日日曜日

「雨月物語」 上田秋成(佐藤至子編)

古典といえば、とっつきにくいものである。そこで、読みやすくした形式として提供されているのが本書である。序文の解説に書かれているように、「美しくも怖ろしい物語たち」との表現が、この本の内容を端的に表現しているといえるだろう。

本書の構成として、現代語文、原文、解説が、適当な区切りで配列されている点が非常に読みやすい。「日本古典文学全集」では、ページ内で、上の方に解説や注、真ん中に原文、そして下1/3の部分に現代語訳と配置されているが、これは気楽に読むにはちょっと辛いレイアウトであると感じる。

内容は9つの短編からなっており、それぞれを読むのはそれほど時間を要しない。話の落ちの怖さでいうと、「吉備津の釜」が一番であろう。主人公は妻の怨霊を避けて42日間籠っていたが、最後の日の夜明けを誤って家からでたために、怨霊に命を奪われる。しかし死体が残されていたわけではなく、ただ血のあとと、主人公の男の髷だけが軒下に引っ掛かっていたという。

お化け物あるいは怪奇小説の類であるが、解説によれば、中国の古い話が下地になっているものもあるらしい。


「ビギナーズ・クラシックス日本の古典」のシリーズのなかの1冊で、2017年末に刊行されている。解説もわかりやすく、元の雨月物語に興味を掻き立てられる。本書の本文の随所に挿入されている解説やコラムは佐藤氏の雨月物語に対する見方をうかがい知れるもので、物語の面白さに加えて読み物として楽しめる。