2020年7月29日水曜日

「定年後のお金」楠木新

 自分の過去の投稿を見直すと、この著者の本「定年後」を読んでいたことを忘れていた。著者は、サラリーマン生活に関しての著作が多く、それらは自己の経験や取材に基づいている。今回は、通常の人であれば避けては通れない「お金」の話である。

 お金の管理法として、収入・支出を追いかけるだけではなく、資産として年に2回程度の集計を行えばよく、そのやり方としては「財産増減一括表」を作成することを推奨している。要は、企業が行っているような「賃借対照表」の家計版を作るということだ。これにより正味財産があるのか、あるいは債務超過で収入が途絶えたら直ちにマズい状況に陥るのかがわかるというものである。おそらくは、ローンを抱えてる家計では、資産の現状把握の一助となるだろう(逆にいえば無借金であれば管理はさらにシンプルだろうが)。

「老後不安と投資を切り離せ」(第4章)では、お金の運用についての具体的な方法が記述されている。株式投資がよくわからないのであれば投資信託へといっているが、投信の手数料についてはあまり触れられていないのが気になった。投信の場合、その種類によっては運用手数料が数%であり、運用益が十分でなければ保有しているだけで目減りが避けられない。したがって、投信にしても手数料の安いところでないと株と同様にリスクがあることを認識しておく必要があるだろう。

 お金がないと困るが、あくまでもそれが目的ではなく、手段であることは、お金の議論では必ず出てくる点である。先行きのことを考えると不安にはなるが、できる限りの準備を進めて「その時はその時」の開き直りも必要なのではないかと思う。日本では、最後の手段は、セーフティーネットとして生活保護があると思うしかないと言ってたのは「ちきりん」さんだったような記憶がある。
今日がなければ明日はないの精神で目の前のことに集中するのが吉でしょうか。

2020年7月24日金曜日

「簡易生活のすすめ」-山下泰平

ミニマリズムのブームからそれなりに時間が経過した。要は「シンプルに生きる」ことを目指している様式で、モノを減らすことが注目されがちだが、広くは人間関係などのソフト面を含むといえる。

この本では副題の通り、「明治にストレスフリーな最高の生き方があった!」と、日本では明治時代からミニマリズムに通じる生活様式(=簡易生活)を実践しようとする動きがあったことを、当時の文献、新聞記事をもとに紹介している。

当時の文献のうち、徳富蘇峰の「簡易生活」については、以下の3点に要約されるとしている(p.42)、
・実用がすべて
・簡易で簡素
・余計は排除

当時の実践者の事例で、広い家に住んでいたが簡易ではないと考え、狭い家に引っ越したが、やっぱり広い家に住みなおしたことが記述されている。
ここでの行動を
・思い立ったらすぐ実行
・失敗を恐れない
・間違えたら改める
とまとめている(p.68)。
これらの要点は、明治の始める方法・失敗する方法のまとめ(p.56)でも同様である。すなわち、
・始めさえすればよい
・失敗してもとらわれない
・改善すればいい
の3つである。

始めても失敗したと思ったらすぐに改める点が特徴的だ。別の選択肢としては、失敗しないように「よく考えて」、それから「実行」があるが、これではよく考える時間が余計なために簡易ではないということなのだろう。

当時の事情として、食事の用意する時間を減らす方法(電子レンジはもちろん、コンビニもない時代なので)とか、さらには、モノを食べないことが究極だとして、どれだけ食べずに生きていけるかをやってみた記事の紹介があり、なかなか笑わせてくれる。まさに、思い立ったらすぐ実行し、だめでも構わず、改善すればいいという思想である。

文明の発達により、当時は夢のような話が今は現実となっているので、今となっては問題とならない点も多い。一方で、「自分も他人も道具であり、とにかくうまく道具を使え」という「平民主義」の思想は、現在も適用できる考え方である。