2015年3月8日日曜日

「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」村上春樹

「村上春樹」といえば、ノーベル賞受賞者発表の時期になると盛り上がるというのが、個人的印象である。世界的にも有名な作家だが、実は読んだことがなかった。前回の本(「本なんて読まなくたっていいのだけれど、」)のなかで、この本の紹介を見かけ、面白そうなので読んだ次第だ。

高校時代に名古屋で仲のよかった5人組のうちで、主人公のつくるだけが、名古屋から東京に進学し、その後、20歳のときに突然の絶交を宣言される。それはつくるにとってショッキングなことであったが、本人も理由を詮索することなく、わからないままで10年以上が経過した。その後、真剣に付き合いだした沙羅から、その理由を明らかにすることを勧められて、4人の消息と理由を確認する旅に出るという展開だ。

解釈の難しい部分があるとはいえ、話の展開としてはわかりやすい(つまりは「旧友を探し出して、グループからはじかれた真相を明らかにする」)。ただし、青年期の心理的状態にどれだけ入り込めるかは、読者の属性に依存するだろう。つくるの年齢以降の男性であれば、自分の過去と照らし合わせて移入しやすいに違いない。一方で15歳の少年が読んだ場合にはあまり状況が理解できないかもしれない。また、女性読者からであれば、自分(中年男性ですが)とは違った印象を受けるのであろう。


基本的には「エンターテイメント」な読み物であるが、人生に関する言葉について、いくつか心に残ったものを以下に引用する。

■p23 つくるが、東京の大学に出て駅舎建築を学ぼうとした理由を聞いた沙羅の言葉
「限定された目的は人生を簡潔にする」

■p53 灰田がつくるに言った言葉
 「・・・、限定して興味をもてる対象がこの人生でひとつでも見つかれば、それはもう立派な達成じゃないですか」

■p206 つくるとアカの会話中に、アカの言葉

「おれたちは人生の過程で真の自分を少しずつ発見していく。そして発見すればするほど自分を喪失していく。」  

世の中には目的がぼんやりしていたりよくわからないこともあるので、人生だって目的がはっきりしていなくてもよいかと思ったりする。作中の登場人物の言葉から、その意味深さを想像するのもまた小説の醍醐味だろう。


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