2018年5月5日土曜日

「うらおもて人生録」色川武大

 著者である色川武大は、別名である阿佐田哲也(=「麻雀放浪記」の作者)が有名であるかもしれない。著者はかつては博打で生計を立てていたプロである。
麻雀は少しかじった程度しか自分はわからないが、その初心者のころに友人が教えてくれたのが、この本で書いてあることだと記憶している。そのこととは、麻雀は最終的には点棒のやり取りで点数で勝敗が決まるが、その局面での点棒のやり取りだけではなく、そこで「運」のやり取りがあるということだ。
マージャンは点棒のやりとりのように見えるけれども、実は運気のうばいあいなんだね。ところが運気は眼に見えないから、点棒の状態でお互いの様子を判断することになる。それでは不正確なんだけどね。(p.296)
あとは、運不運に関しては、長い目で見ればプラスマイナスゼロになるという。上にいったり下にいったりすることはあるにせよ最後には「原点」に戻ると。最後とは最期、その人の人生が終わるときである。

 人生は長いマラソンのようなものであり、また、その長丁場で勝ち続けることは所詮無理であるといっている。その例えは相撲でいうと15勝ゼロ敗を一場所ならできるかもしれないが、それを続けていくことには無理があると。9勝6敗くらいを目指し維持するのが肝要であるという。「負け時」を考慮すべきだということは興味深い点で以下のように言っている。
なにもかもうまくいくわけじゃないんだから、なにもかもうまくいかせようとするのは、技術的にはまちがった考え方だ。
少年よ、大志を抱け、という言葉があるね。あれは気力の問題。もちろん気力は大切だよ。
そのうえで、技術としては、どこで勝ち、どこで負けるか、だ。(p.104)
他にはフォームの大切さを野球を例にして説明しているのがわかりやすい。なぜスランプに陥るのか、あるいは調子を崩すのか?その原因はフォームが崩れることにあるのだと。王選手に対して王シフトを考案した広島の監督も、打撃フォームを崩すことを目的としていたらしいことも記されている(王貞治の現在の認知度に不安がありますが…)。
フォームがあれば勝ち越しできる、勝ち負けのバランスで6分4分の割合で勝つことが重要であるといい、生きる上でのフォームとは以下のように言っている。
思いこみやいいかげんな概念を捨ててしまってね、あとに残った、どうしてもこれだけは捨てられないぞ、と思う大切なこと。これだけ守っていればなんとか生きていかれる原理原則、それがフォームなんだな。(p.115)
勝負の世界から、人生に対してフォームを定義しようとするとわかりにくい感は否めない。あとは本書から読み解いていただくしかない。

本書でいえるのは、他人に勝るとしても「大勝」ではなく「ほんのちょっとだけ」抜きん出ることが長丁場では大切で、相手の立場を尊重(今風に言えばリスペクトか?)することも不可欠だということだろう。

昭和の終わりの時期に出版されたとはいえ、生き方の指針を模索するうえでは平成の終わりに読んでも示唆に富む著作である。

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