2016年5月2日月曜日

「勤勉は美徳か?幸福に働き、生きるヒント」大内伸哉

世の中では、働いている人といえばいわゆる「勤め人」が多数派ではないかと思う。どこかに勤めて、給料をもらっている人たちである。そのなかでは、当然ながら契約のうえでの関係があるはずだが、この契約やその他の法的な環境を理解して勤めている人はどの程度いるのだろうか?日本国内でみると、正社員になると期限のない雇用となるのであまり意識されてないのではないか。
自分の入社当時はまだ不景気ではなかったため、その辺の事情(労働に関係する法律)に無頓着であり、ここまできた。まあ、それでも何とかなってきたのは今と比べてまだ「世知辛さ」の度合いが小さかったためであろう。

本書は労働法関係について、具体的な事例とともに示されており、その辺の事情に詳しくないひと(自分も含まれますけど)に役立つ内容だ。例えば年休については、休む際に上司の承諾が必要であると思われがちだが、これは違法であり、また、会社の許可なく年休を取得できるところが日本の法律の特徴だと述べている。また、会社の「時季変更権」(平たく言うと、年休取得のタイミングを雇用者側がずらすこともできる権利)についても、その要件として「事業の正常な運営を妨げる場合」が必要だが、実際に休みの届を出して休むなと言われてもめたらどうなるのか?その判例も示されている。

著者は法律の専門家であり、本書では「日本」と「ヨーロッパ」での雇用や労働法の比較が随所で行われている。本書で日本の労働関係の歴史を眺めると、法ができた背景には労働者を守る思想があったものの、結果的にはライフワークバランスを阻害するものもあったことがよくわかる。

働く概念を、「labor」、「work」で紹介していたのは、ある意味本質を突いているといえるだろう。laborは奴隷の働きから来ており、一方でworkとはそのことばが「作品」を意味するとおり何かを創造する働きであると。おそらくはブラック企業と呼ばれる職場では「labor」となっているのだろう。

労働法をよく知り与えられた権利を行使するのはよいが、そこは日本的なしがらみがあるので、現実的に実行は容易ではない。例えば年休をすべて使い切ることが可能な企業はどれくらいあるのだろうか?ここのところ、年休消化率ランキングなんてものが発表されているが、中小企業ではむりなのではないか?大企業はまだしも、だれかが休んだことによって仕事が減るわけでもなく、その分がだれかにしわ寄せがいくだろう。で、結局休めないなんてことになりがちだ。この点についても、「年休の取得時期を労働者側に渡したほうがよいだろう」という法律の趣旨が裏目にでた例だと述べている。この点について著者は、むしろ一斉に休む時期を決めたほうがよいのではとの主張である。


就職(就社?)したばかりの人にも、また、労働法をざっくりと知りたい人にも勧めたい本です。

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