全3篇が収められている。「眠れる美女」は森ではなく布団で眠っている。完全に眠っている若い全裸女性に添い寝できますといえば実在する風俗サービスとも思えるが、執筆されたのは昭和35~36年である。この小説ではその添い寝の利用者が老人である。利用者は金持ち限定でかつ変なことをしてはいけないという決まりがある。本の後ろには「デカダンス文学の名作」とあり、単なるエロ小説とも読むことができるかもしれない。その一方で、主人公の江口老人が過去の女性遍歴や自分の娘たちを思い返す描写があり、心的な描写でいえば老人小説のようだ。
他の2篇は「片腕」「散りぬるを」。「片腕」は女性の片腕を一晩借りて一夜を過ごすという話である。その片腕が女性を象徴しているのはぼんやりとは理解できるものの、ちょっと難解である。
「散りぬるを」は、被害者が女性の殺人事件を、被告の心情を取り調べの資料から振り返る話である。昭和8年~9年の作品だが、「眠れる美女」「片腕」と毛色が似ているだけに同じ本に収められているのは違和感はない。
解説を読むと多少は理解の一助にはなるが、解説を書いているのは三島由紀夫であり、解説そのものが難解である感は否めない。